
国旗損壊罪とは何か-法案の概要を整理
「国旗損壊罪」とは、国旗(特に自国国旗)を損壊・除去・汚損する行為を刑事罰の対象としようとする法案です。たとえば、報道によれば、ある議員案では「日本国を侮辱する目的で国旗を損壊・除去・又は汚損した者は、2年以下の懲役または20万円以下の罰金に処す」という文言が提示されていました。(nichibenren.or.jp)
この法案の背景には、現行刑法第92条に「外国国旗その他国章を損壊・除去・汚損した場合」という規定がある一方で、自国旗に同様の規定がないという不均衡を是正しようという主張があります。(note.com)
しかしながら、このような法制度設計には、どの程度の行為を「損壊」「汚損」「除去」とみなすのか、また「侮辱目的」という主観的要件をどう証明するのか、といった立法・運用上の難点が指摘されています。例えば、芸術作品として国旗を用いた表現やデモ行為にまで罰則が波及しないかという懸念もあります。(toben.or.jp)
日弁連が反対声明を出した“信じられない”理由
日本弁護士連合会(以下「日弁連」)がこの国旗損壊罪法案に対して反対声明を出したのは、自らが憲法・人権を守る立場から「表現の自由を侵害しうる」ことを強く懸念したためです。日弁連の会長声明(2012年6月1日)では、「日本の国旗等を損壊等する行為を犯罪化することは、表現及び良心・思想の自由を侵害するおそれがある」と宣言しています。(nichibenren.or.jp)
その理由として、以下の点が挙げられています。
- その行為が「侮辱目的」であるという要件を立証するのが困難であり、恣意的な運用がなされうる。(toben.or.jp)
- 芸術・展示・抗議行為などが“国旗使用=損壊”とみなされ、萎縮的影響が出る可能性。(note.com)
- 自国旗を保護する法規は、国家シンボルとしての国旗の尊厳を守るという目的を持つが、同時に「国家への批判・国家の在り方を問う表現」を禁止してしまう恐れがある。(mainichi.jp)
“信じられない”という修辞を使うのは、一般市民の視点では「日の丸=国旗=当然守られるもの」という直感がある中で、まさかその扱いが法律で罰せられうるかもしれないというギャップがあるためです。つまり、読者が普段「国旗を燃やす」などの極端な行為を想像している一方で、法案の運用範囲が想像以上に広がる可能性があるという点が「信じられない理由」として提示できます。
表現の自由と国旗保護―憲法・判例・国際比較
法案反対の“核”には、「自由な表現活動」と「国家シンボル保護」の間での緊張があります。日本国憲法第21条は「集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由」を保障しています。つまり、国家や政府を批判する表現も保護される範囲に入ります。そうした中で、国旗を燃やす・切る・汚すといった行為を刑罰として禁止するかどうかは、表現の自由の観点から重大な検討を要します。
海外の判例を見てみましょう。米国では、1989年の テキサス州対ジョンソン事件 において、州法で国旗燃焼を処罰したテキサス州法が、最高裁判所によって「言論の自由として保護される」として違憲判断を受けています。(toben.or.jp)
主要国における国旗損壊規制の比較
| 国・地域 | 国旗損壊を刑事罰とするか | 主な判例・論点 | 備考 |
|---|---|---|---|
| アメリカ合衆国 | 基本的に言論の自由を重視 | 国旗燃焼を表現と認定(テキサス州対ジョンソン) | 自国旗の損壊を処罰対象にする法律は最高裁で違憲とされた。 |
| 日本 | 自国国旗に対する罰則なし(現行) | 審議中の法案あり | 外国国旗損壊罪(刑法第92条)とは異なる。(note.com) |
| その他国 | 個別に規制あり(例:韓国・中国) | 詳細未掲載 | 各国の政治・歴史背景に左右される。 |
この比較から言えるのは、日本において「国旗損壊罪」を設けることが、海外の自由な表現重視の立場とも対比され、慎重な対応が求められているということです。加えて、日本の法案審議過程では「自国旗だけを対象に罰則を設けるのは不均衡ではないか」「国家的シンボルを保護するために、批判・抗議の表現を萎縮させてはならない」という議論が繰り返されています。(mainichi.jp)
この法案が成立したら何が起きるか?市民・表現者への影響
この法案が成立した場合、想定される影響は決して限定的ではありません。たとえば、次のような可能性があります。
- 芸術活動:国旗を素材またはモチーフとしたアート作品(汚れ・損壊表現など)が、刑罰の対象となる恐れ。
- 抗議活動:デモやパフォーマンスで国旗を掲げ・燃やす・切る・汚すなどの行為を伴った場合、所轄の警察・検察が「侮辱目的」を立証して処罰に踏み切る可能性。
- SNS・ネット投稿:国旗を用いた風刺画像・動画・投稿が、表現の範囲を超えて損壊・汚損行為と解釈され、削除・通報・法的対応の対象になるリスク。
- 学校・教育現場:生徒による「日の丸にペイント」「校旗を使った造形表現」など、教育的表現が萎縮する懸念。
このような影響を踏まえて、読み手(一般市民・学生・表現者)は、次のようなするべきことを考えておくと良いでしょう。
- 自分が関わる表現活動(アート・デモ・SNS等)が国旗を扱っているかどうか確認する。
- 国旗使用について、芸術的・風刺的な意図がある場合でも、それが「損壊」「汚損」「除去」に該当しうるかを自分なりに検討しておく。
- 法案の審議状況やニュースを定期的にチェックし、成立の有無・内容変更の有無を把握する。
- 表現活動を行う際には、事前にリスクを想定・対策をとる(たとえば、損壊行為ではなく象徴的利用・メッセージ性を明確にしておく)。
- 周囲(友人・同僚・表現仲間)とこの議論を共有し、「国旗と表現の自由」について考え・話し合う。
このような準備をしておくことで、もし法案が成立・厳格運用された場合でも、読み手自身が適切に対応できるようになります。
いま私たちが取るべき行動(するべきこと)
この記事をご覧になったあなたが、今すぐ実践できる“具体的な動き”をご紹介します。
- 声明・資料の確認:日弁連の「国旗損壊罪に関する会長声明」や、政府・議員が提出している法案文を原典で確認しましょう。特に「侮辱目的」「損壊の範囲」「罰則額」などの記述を自身で確認することで、議論を正しく理解できます。(nichibenren.or.jp)
- 自身の表現活動の棚卸し:あなたが、アート/メディア投稿/抗議運動などいずれかの形で国旗を扱っているなら、「国旗を単なる象徴として掲げているか」「損壊・汚損という主体的な行為を行っているか」を整理してみてください。「もし法案成立時に起訴されたらどう対応すべきか」を考えることで、表現の自由を守る備えとなります。
- 情報収集の習慣化:この法案は、過去にも提出されながら廃案になってきた歴史があります。(toben.or.jp) 今後、審議入り・修正案提出・国会での審議状況などが報じられますので、少なくとも月に一度はニュースや報道をチェックしておきましょう。
- 議論を周囲と共有する:国旗損壊罪の議論は、表現の自由・国家シンボル・国家権力との関係という複雑なテーマを内包しています。友人・同僚・表現活動を行う仲間などと「もしこの罪が成立したら自分達にはどう影響があるか」と会話を交しておくことで、あなた自身の考えも整理され、相互理解の基盤になります。
- 活動時の留意点を設定する:もし今後、表現活動を行うなら「国旗を傷つける」行為を意図するか否かを明確にし、「国旗をテーマにするなら、損壊ではなく象徴的に利用する」などの自衛ラインを設定しておきましょう。これにより、万が一の法的リスクを低減できます。
まとめ―なぜ“信じられない理由”が現実化しつつあるのか
今回の記事では、なぜ日弁連が国旗損壊罪制定に反対声明を出し、その理由が「信じられない」と感じられるのかを整理しました。まず、法案そのものが「国家シンボルとしての国旗」を罰則対象とする点で、ほとんど議論されてこなかった“表現の自由”との衝突を内包しています。そして、日弁連が提示する「侮辱目的立証の困難さ」「表現活動の萎縮」「自国旗を対象にした処罰の不均衡」という論点は、私たち市民の活動・表現の在り方と深く関係しています。
もしこの法案が成立して運用されれば、芸術・抗議・ネット投稿など、多様な表現活動が法的リスクを伴うものになりうるため、まさに「信じられない理由」が現実化する可能性があります。だからこそ、私たち一人ひとりが“自分ならどう動くか”を考え、準備しておくことが重要です。なお、情報は今後も更新される可能性がありますので、定期的なチェックをお勧めします。










