JR東日本が指名手配犯検知の顔認証を止めた “真相”

2025年に入って話題となった「JR東日本の顔認証カメラ中止問題」。警察と連携し、駅構内で指名手配犯を自動検知するシステムを運用していたとされますが、
日本弁護士連合会(日弁連)の強い懸念表明を受け、運用が事実上停止されました。
この背景には、個人情報保護や監視社会化への不安が根強くありました。

何がいつ起きたのか —— 時系列で見る

時期 出来事 概要
2023年頃 JR東日本が防犯カメラを高度化 AIを活用した顔認証技術を導入し、指名手配犯検知実験を実施。
2024年 日弁連が意見書を提出 「市民監視につながる」として問題提起。公共空間での無断顔認識を批判。
2025年 JR東日本が運用を停止 批判や法的リスクを踏まえ、当面の運用中止を決定。

日弁連は何を「違法/不当」と見たのか

日弁連の指摘は「目的外利用」と「同意の欠如」に集中していました。駅構内での顔認証は、防犯目的という名目のもとに、乗客の同意なしで実施されていた可能性があるためです。
個人情報保護法の観点から、利用目的の明確化と本人の同意が必要とされます。
特に日弁連は「監視カメラ網の拡張によって、市民の移動が常に追跡可能になる社会構造」に警鐘を鳴らしています。

JR東日本の説明と「言わなかったこと」

JR東日本の公式発表では、「セキュリティ強化を目的とした実証実験」としています。
しかし、「警察とのデータ共有範囲」や「どのように顔データが保存・削除されるのか」については明確な説明がありません。
利用者からは「安心のために何を犠牲にしているのか」が分からない、との声が多く上がりました。

技術が孕むリスクは「誤検知」だけではない

顔認証技術は高精度化しているものの、完全ではありません。誤検知が起きれば、無実の人が「容疑者」として誤認されるリスクもあります。
また、監視の常態化によって「常に見られている」心理的ストレスが社会的な副作用をもたらす可能性があります。
これらの問題は、技術的な問題というより「透明性と説明責任」の欠如が原因です。

「公共の安全」と「プライバシー」は二者択一ではない

安全のために監視を強化するか、プライバシーを守るために技術導入を制限するか。これは単なる二者択一ではありません。
重要なのは、両立のためのルール作りです。
例えば「データの保存期間を明確に定める」「第三者機関による監視を導入する」など、技術利用を社会的にコントロールする仕組みが求められます。

今すべきこと —— 透明性の実効性を取り戻すために

・公共空間でのデータ取得のルールを可視化する。 市民が「どのような目的でデータが使われるか」を理解できる環境が必要です。

・監査機関を独立させる。 行政や企業の内部監査ではなく、外部専門家による定期的な監視体制を整えること。

・利用者が拒否できる仕組みを設ける。 顔データの利用に対して「NO」と言える選択肢を提供するべきです。

・市民教育の強化。 監視社会リテラシーを高め、自分の情報がどう扱われるのかを考える力を育てる。

・テクノロジー企業の説明責任。 AIの設計段階から倫理性を担保し、社会的影響を開示する文化を作る。

・報道の役割。 メディアが透明性を確保し、企業発表を鵜呑みにせず検証する姿勢が不可欠です。

よくある疑問(FAQ)

Q:顔認証カメラの導入は違法なの?

現時点では明確に「違法」とは言えませんが、利用目的が不透明である場合や、本人同意が取れていない場合には問題となります。
特に公共空間での常時撮影・分析は慎重な運用が求められます。

Q:今後JR東日本が再開する可能性は?

JR東日本は「今後も技術検証を続ける」と述べており、社会的合意形成が進めば再開の可能性もあります。
ただし、再開には法的・倫理的ガイドラインの整備が不可欠です。

Q:他の鉄道会社も導入しているの?

一部の私鉄では、防犯目的のAIカメラが試験導入されていますが、「顔認証機能付きで指名手配犯を検知する」というレベルの運用は限定的です。
国や自治体の方針次第で、今後の広がりが左右されます。

まとめ

JR東日本の顔認証カメラ中止問題は、単なる技術の是非ではなく、「透明性」「説明責任」「人権意識」という社会基盤の問題を映しています。
監視社会を恐れるだけでなく、どうすれば信頼できる技術利用が可能になるかを、私たち自身が考える時期に来ているのです。
弁護士ドットコムニュース でも、多くの法専門家がこの問題を警鐘として取り上げています。

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