裁判の発端|深田萌絵氏が足立議員を提訴した理由

2021年6月、衆議院内閣委員会にて、足立康史議員(日本維新の会)が深田萌絵氏について「ひどいデマを飛ばす人物」と発言しました。この発言はその後、YouTube動画として編集・公開され、深田氏の顔写真やテロップなどが追加された形式で視聴されることになります。深田氏はこの編集動画が名誉を毀損していると主張し、足立議員を提訴。

争点は、議員の発言が「国会内での免責対象」に当たるのか、また編集された動画による二次的名誉毀損が成立するかにありました。

東京地裁の判決内容|賠償金は33万円と判断された理由

2024年4月23日、東京地方裁判所は足立康史議員に対し、名誉毀損を認定し33万円の支払いを命じました。

項目 裁判所の判断
国会内の発言 憲法51条により免責対象
YouTube編集動画 免責の対象外
「デマ」との表現 名誉毀損に該当

賠償額は1650万円請求に対して大きく減額されましたが、名誉毀損が公に認定されたことは大きな意義があります。国会での発言が、ネット上で編集・再拡散されたことで新たな法的責任が生じた前例となりました。

背景知識|“背乗り”主張と他の訴訟

深田萌絵氏は、いわゆる「背乗り(はいのり)」と呼ばれる主張──外国人が日本人の戸籍を乗っ取って成りすます──に基づき、複数の人物に対して民事訴訟を起こしてきました。しかし、東京地裁をはじめとする各裁判所でこれらの訴訟は証拠不十分とされ、すべて棄却されています。

また、刑事告発も複数行われましたが、いずれも警察や検察で受理されず不起訴となっています。こうした主張が背景にあったことが、足立議員の「デマを流す人物」という表現の根拠とされ、今回の名誉毀損訴訟へとつながりました。

項目 内容
背乗りの主張 外国人による戸籍乗っ取り説
訴訟件数 複数件(民事)
裁判結果 すべて棄却(証拠不十分)
刑事告発 受理されず
今回との関係 「デマ」発言の前提事情

国会免責特権とYouTube編集の境界線

憲法51条では、国会内での議員の発言は免責されると規定されています。しかし、今回の訴訟では、編集された国会動画が「免責の枠を超えた行為」と判断されました。

行為 免責されるか
国会質疑(録画なし) される
質疑の録画そのまま配信 グレーゾーン
編集し断定表現や画像を追加 免責されない

このように、発言の内容だけでなく、情報発信の形式と意図が法的評価に影響することが明確になった判例です。

名誉毀損とされた「デマ」表現の法的評価

名誉毀損が成立するには、主に以下の3つの要件が必要です:

  • 社会的評価を低下させる内容であること
  • 公然性(不特定多数への発信)があること
  • 故意または過失があること

さらに、違法性がないとされるには「公共性・公益目的・真実性」が必要です。本件では、深田氏の背乗り主張がすべて虚偽とまでは証明されておらず、足立議員の発言が断定的であり、名誉毀損の成立が認められました。

控訴審の行方|今後の焦点と予想される展開

足立議員側は2024年5月に控訴し、現在東京高等裁判所で係争中です。控訴審では以下の点が主な争点になります:

  • 編集動画が「公益目的」に基づくものかどうか
  • 「デマ」という断定が真実に基づくといえるか
  • 名誉毀損の損害が実際に生じたか

判決は2025年後半と予測されており、結果次第では最高裁への上告も見込まれます。特に国会発言とネット発信の線引きをめぐる判断は、今後の政治家・メディア発信にも影響を与えるでしょう。

読者が気をつけるべきこと|SNS・発信のリスク管理

SNSや動画配信など、誰もが情報発信できる時代において、今回の裁判は大きな警鐘を鳴らします。以下の点に注意することが重要です:

  • 他人の名誉・信用に関わる表現は慎重に扱う
  • 「詐欺」「背乗り」などの断定的表現は避ける
  • 情報発信時は事実と意見を明確に分ける

情報が一度拡散されると、削除が困難になり、名誉毀損・信用毀損・侮辱罪など複数のリスクが伴います。SNS利用者にとっても、今回の裁判は重要な教訓です。

まとめ|本件裁判から得られる教訓

  • 国会発言でも、編集・拡散により法的責任を問われる可能性がある
  • SNS・YouTubeなどでの断定的発信は名誉毀損リスクが高い
  • 背景にある主張の信頼性も裁判で問われる

深田萌絵氏の裁判は、言論の自由と名誉保護のバランスを問う、現代的かつ多面的な問題を含んでいます。政治家や報道関係者だけでなく、私たち一般人も、情報発信の「自由」と「責任」を深く考える必要があります。

参考にした情報元(資料)