はじめに

「日本語 世界で一番難しい言語というのは本当か?」──この問いを抱えて、語学学習を始めようとしている方は少なくありません。確かに多くの言語学/学習資料では、英語母語話者にとって日本語が極めて難しい部類に入るとされています。たとえば、Foreign Service Institute(FSI)による学習時間目安では、日本語は「最も難しい言語群」に分類されています。FSI言語難易度ランキング
しかし、だからといって「世界で一番難しい言語」であるかどうかは、母語、学ぶ目的、学習環境によって大きく変わるのも事実です。
本記事では、まず「なぜ難しいと言われるのか」をデータとともに整理し、次に「本当に世界で一番なのか」を比較視点で検証し、最後に「それでも日本語を学ぶ/続けるためにすべきこと」を提示します。読者の皆さんが納得を得て、安心して学習を始められるよう設計しています。

1. どのような根拠で「世界一難しい」と言われるのか?

主な根拠

  • 学習時間目安のデータ:FSIの分類で、英語母語話者が「日本語を話読でプロフェッショナルレベルに習得するには約2,200時間(88週)必要」とされており、「最難レベル」の言語群に入るとされています。Atlas & Boots(FSI分類)
  • 文字体系の複雑さ:日本語は仮名(ひらがな・カタカナ)と漢字という複数の文字体系が併存し、漢字には読み・意味が多様なものもあります。この点が学習者にとってハードルとなっています。EC Innovations(難易度分析)
  • 敬語・語形変化・語順などの文法・語用面の難易度:文の語順(主語‐目的語‐動詞:SOV)や敬語・尊敬語・謙譲語の使い分け、助詞・接続形の多様性など、「慣れないと誤用しやすい」構造が多く挙げられます。Migaku Blog

これらの根拠をもって「難しい」という説が広まっています。ただし、上記のデータはいずれも「英語母語話者」「特定の到達目標(Professional Working Proficiency)を想定」という前提があることを、次節で整理します。

2. 「世界一」かどうかは基準次第 ― 比較で分かること

比較軸

  • 文字体系(アルファベット/漢字・仮名など)
  • 文法構造(語順・語形変化・助詞等)
  • 発音・音韻体系(アクセント・母音・子音)
  • 語彙・類似性(母語との距離)
  • 学習時間・経験データ

主要言語との比較(英語母語話者基準)

言語 学習時間目安* 特徴(難しい点)
日本語 約2,200時間 3種文字・語順SOV・敬語・漢字読みの多様性
中国語(標準語) 同じく2,200時間程度 漢字+音声のトーン・異なる語順・母語との距離が大きい Wikipedia
韓国語 同じ難易度域 文字体系はハングルでアルファベットに近いが文法が類似構造少ない Atlas & Boots

*データはあくまで英語母語話者を想定した目安です。
このように、英語母語話者にとって日本語は「最難レベル」の一つに入りますが、「世界で一番」と断言するのは慎重であるべきです。なぜなら、母語が異なれば難易度は大きく変わるからです。例えば、韓国語母語話者にとって日本語は比較的習得しやすいという投稿もあります。Reddit言語学習フォーラム
ゆえに、「日本語は世界で一番難しい言語か?」という問いに対しては、「特定条件(英語母語・高めの到達目標)では非常に難しいが、万人にとって“世界一”とは言えない」というのが実際的な結論です。

3. 日本語が「難しい」と感じられる具体的ポイント ― 5つの壁

① 表記(漢字・仮名の混在)

日本語では、ひらがな・カタカナ・漢字が混在して文章を構成します。漢字には複数の読みや意味があり、例えば「生(せい/しょう/い/う)きる」「行(こう/ぎょう/い)く」など、読み替えや文脈依存性があります。仮名だけの言語に慣れた学習者にとって、この読み替えは大きな壁です。
対策:まずは常用漢字(2,136字)を目安に、「音読み+訓読み+用例」で覚え、漢字認識を定着させましょう。また、ひらがな・カタカナを確実に読み書きできるよう、100時間程度の集中特訓がおすすめです。

② 敬語(尊敬語・謙譲語・丁寧語)

日本語では、話す相手や立場に応じて敬語レベルを使い分けます。例えば「言う → おっしゃる/申す」「見る → ご覧になる/拝見する」など。文法的にも動詞変化や語彙変化が生じるため、非ネイティブにとっては誤用のリスクが高いです。
対策:まずは「丁寧語(〜ます/〜です)」から始め、次に「尊敬語・謙譲語」の典型パターン(5〜10動詞)に絞って覚えます。実際に会話やロールプレイで使ってみることも有効です。

③ 語順(SOV)と文の構造

英語話者にとっては「主語–動詞–目的語(SVO)」が自然な語順ですが、日本語は「主語–目的語–動詞(SOV)」の構造が基本です。また、助詞(が/を/になど)によって文の役割が補われるため、語順の変更や省略が起こりやすくなります。これが理解・発話時のハードルになります。Japan Living Guide
対策:短文から始めて、語順が「〜が〜を〜する」型になっているかを意識しましょう。英語で慣れた「I eat sushi.」から「私は寿司を食べる。」という構造に変換する練習を反復することで慣れが出ます。

④ 発音・アクセント

日本語の発音自体は母語によっては比較的捉えやすい(母音5つ・子音数も少なめ)という評価もありますが、ピッチアクセント(高低アクセント)が意味変化に関わることがあります(例:「橋(はし)」vs「箸(はし)」)など。EC Innovations
対策:録音を聞いてピッチの差を自分で模倣するシャドーイングを行い、「音の高低」が意味に影響するケースを10例程度覚えると効果的です。

⑤ 語彙・多義性・慣用表現

日本語には漢語・和語・外来語が入り混じり、同音異義語やニュアンスの違いが多くあります。「生(せい・なま・い)」「上(じょう・うえ・かみ)」など、文脈を見なければ意味が曖昧になることもあります。Migaku Blog
対策:語彙を単独で覚えるのではなく、例文+語彙+読みという三点セットで覚えましょう。また、「多義語リスト」や「慣用表現100選」の暗記も有効です。

4. エビデンスで見る:どのくらい時間がかかるか

学習時間の目安を明示することで、「世界一難しい」とされる背景と、現実的な期待値を提示します。

学習時間目安

FSIによれば、英語母語話者が「日本語を読み書き・話せるレベル(Professional Working Proficiency)に到達するには約2,200時間(88週)」とされています。Atlas & Boots

目的 想定学習時間レンジ
日常会話レベル 約400〜800時間
ビジネス会話+読み書きも含む 約1,200〜2,000時間
ネイティブに近い習得レベル 約2,000時間以上

5. それでも学べる:英語話者向け・段階別学習するべきこと

入門期(0〜6ヶ月)

  • 目的:ひらがな・カタカナを習得し、簡単な日常会話フレーズを使えるようにする
  • 教材例:みんなの日本語 初級Ⅰ、Genki I
  • ツール:アプリ(Anki、WaniKani)、オンライン会話パートナー
  • チェックポイント:自己紹介ができる/簡単な質問に答えられる

中級期(6〜24ヶ月)

  • 目的:漢字500~1,000字・語彙3,000語程度を習得し、日常会話+簡単な読み書きができるようにする
  • 教材例:中級を学ぼう、日本語総まとめ N3
  • チェックポイント:雑誌記事を読んで8割理解/自分の意見を簡潔に述べられる

上級期(24ヶ月〜)

  • 目的:漢字1,000~2,000字/語彙6,000語以上を習得し、ビジネス文書を読み書きできる
  • 教材例:上級へのとびら、ビジネス日本語ハンドブック
  • チェックポイント:新聞記事を読む/会議で意見を述べる/メールを自信を持って書ける

継続のためにするべきこと

  • 毎日15分以上のインプット+アウトプットを習慣化
  • 4技能バランス(聞く・話す・読む・書く)を意識
  • 1週間に振り返る時間を設ける
  • 日本語メディア(ドラマ・ニュース・ポッドキャスト)を活用

6. FAQ よくある疑問

Q1. 日本語は英語より難しい言語ですか?

A:母語が英語で、学習目的が「読み書き+会話+ビジネス」レベルであれば、確かに難易度は高めです。ただし、学習目的を「日常会話」に限定すれば、そこまで高くないという報告もあります。JapanesePod101

Q2. 漢字は全部覚えなければならないのですか?

A:いいえ。常用漢字2,136字が基準とされていますが、目的が日常会話洗練であれば、まずは500字〜1,000字を目標にするのが現実的です。

Q3. 発音・アクセントが難しそうですが、どこから始めればよい?

A:母音・子音をまず安定させ、次に10〜20語程度の「高低アクセントで意味が変わる語彙」を聞いて真似るシャドーイングを習慣化するのがおすすめです。

Q4. 日本語は「世界で一番難しい言語」と言えますか?

A:「英語母語話者にとって」は最難レベルに位置するデータがありますが、「世界で一番」という断定までは難しく、母語・目的・環境により難易度は大きく変わります。

Q5. どうすれば挫折せずに続けられますか?

A:まず「週5回×30分」「30分以内で達成可能な小目標」を設定し、達成感を得ること。さらに「日本語で好きな何か(アニメ/マンガ/ゲーム)に触れる」ことでモチベーションを維持できます。

7. 結論と次にするべきこと

結論として、「日本語 世界で一番難しい言語というのは本当か?」という問いに対しては、こう答えられます。
英語を母語とする学習者が日本語をプロレベルで習得するには非常に時間と努力が必要であり、難易度は世界トップクラスです。とはいえ、“世界一難しい”という表現は母語・目的・環境によって変化するため、すべての人に当てはまるわけではありません。

それでも、日本語を学ぶ価値は十分にあります。日本語を習得できれば、文化的理解が深まり、多くのメディアや人との交流が広がります。今すぐ始めるべきこととして、以下をお勧めします:

  • ひらがな・カタカナをまずマスターする(今週中に50音表を覚える)
  • 学習プランを作成し、「月別/週別/曜日別」で学習時間を決める
  • 日本語に触れる習慣を作る(毎日10分、ニュース・ポッドキャスト・マンガなど)

このように、学習をルーチン化して小さな成功体験を積むことで、「難しい」と思われがちな日本語でも、着実に前に進めます。ぜひ、第一歩を踏み出してください。

参考にした情報元(資料)