
日本企業 中国から撤退――なぜ今、加速しているのか
かつて「世界の工場」「巨大マーケット」として無二の地位にあった中国だが、2025年現在、その価値観は急速に揺らいでいる。多くの日系企業が中国での事業縮小、あるいは撤退を決断し始めている。その背景には、単なるコスト高騰や中国国内の賃金増だけではなく、構造的な産業の転換、地域政策の変更、そして地政学リスクの顕在化がある。
たとえば、最近では三菱自動車が中国でのエンジン生産を終了し、全面撤退を表明、またホンダも広東省の工場閉鎖を進めている。(参考:マネーポストWEB)
こうした動きは単なる一時的なものではない。多くの企業が今、中国という拠点の“将来性”に疑問を持ち始めており、撤退・縮小は“リスク回避”というより“現実適応”の選択肢になっている。
また、統計的にも、中国進出日系企業の数はピーク時の2012年から減少傾向にあるという報告もある。(参考:同上)
つまり、今は“脱中国依存”が静かに、しかし確実に進んでいる転換期だと言える。
2025年のチャイナリスクとは――なぜ撤退や縮小が増えているのか
企業を悩ませる複合的リスク
| リスクの種類 | 内容 | 企業にとっての痛み |
|---|---|---|
| 地政学的/政治的リスク | 日中関係の冷え込み、報復措置、国際的緊張の高まり | 貿易制限、イメージ悪化、契約リスク |
| 市場構造の変化 | EV化の加速、中国メーカーの急成長 | 販売低迷、競争力低下、在庫リスク |
| 制度・規制の不透明性 | 労務・環境規制の頻繁な変化 | コスト増、事業許可の不確実性 |
| サプライチェーンの分散難 | 特定地域依存が依然として強い | 一部の混乱で全体停止のリスク |
特にEV分野では、中国メーカーの技術・価格競争力が急上昇し、自動車産業の主導権が様変わりしている。(参考:東洋経済オンライン)
制度変更の頻度の高さも企業にとって大きな負担であり、「予測ができない」という最大の不安要素となっている。
撤退・縮小の実例――三菱自動車、ホンダ…そして中国市場の“見直し”
主な企業の動き
これらは「撤退=失敗」ではなく、「将来市場の変化に合わせた再構築」という性格が強い。市場の変化が速い中国では、柔軟な方針転換がむしろ合理的といえる。
トヨタが示す新しい道――共存と分離の“両立戦略”
レクサス(上海)新エネルギーの設立
トヨタが中国から撤退するどころか、あえて中国専用の研究開発・生産・販売を一体化した組織を設立したことは大きな注目を集めた。(参考)
ポイントは、世界向け事業と中国向け事業を明確に「分離」したことだ。これは、チャイナリスクを局所化しつつ、中国市場のメリットだけを取り込む戦略である。
これから日本企業がするべきこと――“撤退か継続か”ではなく“関係性を再設計する”
企業が今すぐ取り組むべき3つの視点
| するべきこと | 内容 |
|---|---|
| サプライチェーンの分散 | ASEANやインド、メキシコなどへ生産を再配置し、中国一極集中のリスクを軽減する。 |
| 市場ごとの設計分離 | 中国向け事業とその他市場向け事業を区分し、リスクと価値を最適化する。 |
| 自社の強みへの集中 | 中国メーカーとの価格競争を避け、品質・技術・ブランド力で勝負する領域へ集中する。 |
結論:「撤退」でも「継続」でもなく――“関係性の再設計”が新常識
2025年現在、中国市場は巨大である一方、リスクと不確実性が同時に増している特異な市場である。日本企業の動きは二極化しており、撤退・縮小の道を選ぶ企業がある一方で、トヨタのように「分離戦略」で共存を図る企業も存在する。
重要なのは「どちらを選ぶか」ではなく、どう中国市場と向き合い、自社の事業構造をアップデートするかだ。静かに進む脱中国依存の流れの中で、自社にとって最適な距離感を設計することこそが、これからの生き残り戦略となる。










