「友達にもらった」クッキーを食べた直後に異変

東京都内の大学生が、友人からもらった市販のクッキーを食べた直後、錯乱状態に陥り、マンションから飛び降りて救急搬送されるというショッキングな事件が発生した。命に別状はなかったが、搬送時には「興奮状態で意味不明なことを叫んでいた」という。

このクッキーには、「HHC」と呼ばれる合成カンナビノイド系の成分が含まれていた可能性があり、警察が詳しく調べを進めている。

「合法」のはずのクッキーがもたらした異常行動

警視庁によると、問題のクッキーは都内の雑貨店で販売されていた商品で、パッケージには「リラックス効果」「集中力向上」などの表記があったが、成分表示には具体的な化学物質名は明記されていなかった。

鑑定の結果、クッキーからは指定薬物には該当しないものの、大麻に似た作用を持つとされる「HHCH(ヘキサヒドロカンナビヘキソール)」という物質が検出された。この成分は幻覚や興奮、嘔吐、錯乱といった症状を引き起こす可能性があり、今回の飛び降り行動との関連が強く疑われている。

高揚する成分入りクッキーの「商品名は?」

今回、大学生が摂取して錯乱状態に陥り、飛び降りて救急搬送されたとされる「高揚成分入りクッキー」について、読者の間では「一体どの商品だったのか」「名前を明かすべきではないか」との声が広がっている。

しかし現時点で、警視庁や関係機関は商品名を明らかにしていない。理由にはいくつかの事情がある。

規制対象外ゆえ「違法商品ではない」

まず、このクッキーに含まれていたとみられる成分「HHCH(ヘキサヒドロカンナビヘキソール)」は、現時点で日本の「指定薬物」に該当しない。つまり、販売自体は現行法では違法とされていない。そのため警察も、事件性が確定していない段階では商品名の公表を避けていると見られる。

捜査中の段階での過度な情報公開は困難

また、商品名を公表することによって販売元や販売店に損害を与えた場合、「名誉毀損」や「営業妨害」となるリスクがある。警察は安易な情報公開を控えており、正式な成分鑑定結果や違法性の有無が明確になるまでは、商品名を伏せるのが通例である。

「特定は困難」なケースも

さらに報道によれば、当該大学生が「友人からもらった」と証言しており、購入ルートや正確な商品名の特定が困難な状況とも伝えられている。包装が残っていなければ、後から特定するのは非常に難しいかもしれません。

そもそもHHCHとは?――「脱法ドラッグ」の進化系

HHCHは、麻薬や大麻とは異なり、現時点では日本の「指定薬物」には分類されていない。だが、HHC(ヘキサヒドロカンナビノール)などの類似物質は、2023年に厚生労働省によって次々と規制対象に加えられた経緯がある。

HHCHなどは「いわゆる“脱法ハーブ”の進化系」とも言われ、従来の大麻よりも強力な作用を持ちながら、法律の隙間をかいくぐって販売されているケースが多い。

すでに全国で健康被害が

このような「合法」成分を含む製品による健康被害は、東京都だけにとどまらない。札幌市では2024年12月、20代男性が“CBDグミ”を摂取後に嘔吐・痙攣を起こし緊急搬送。大阪、福岡、名古屋などでも類似の症例が報告されており、被害は全国規模で広がっている。

特にSNSや動画アプリを通じて若者の間で“合法トリップ”が流行しており、無自覚に危険な物質を摂取してしまうケースが増加している。

どこで売られている?ターゲットは若者

問題のクッキーやグミは、東京都内や大阪の繁華街にある一部の雑貨店、CBDショップ、またはインターネット通販などで簡単に手に入る。パッケージはカラフルでポップ、スナック菓子のような見た目だが、裏面をよく見ると「未成年の使用禁止」「精神作用を伴う可能性あり」などの注意書きがある商品も。

一部の販売業者は、薬事法や食品衛生法の「グレーゾーン」に位置することを認識しつつ、「合法だから」と宣伝しており、購入者は安全性について誤解しがちだ。

規制の後手といたちごっこ

厚生労働省は、HHCなどを2023年に指定薬物に追加するなど規制を強化しているが、化学構造をわずかに変えただけで規制を回避できる現状では、まさに“いたちごっこ”の様相を呈している。

こうした新興ドラッグは「デザイナーズドラッグ」とも呼ばれ、取り締まりが後手に回りがちだ。今回のHHCHについても、被害報告が相次いでいるにもかかわらず、まだ法規制には至っていない。

私たちができること――「合法=安全」ではない

最後に強調すべきは、「合法だから安心」「売られているから大丈夫」という思い込みが、取り返しのつかない健康被害につながりうるという現実だ。

日本中で拡散しているこれらの「トリップ系クッキー」「CBDグミ」には、幻覚作用や中枢神経への影響がある物質が含まれている可能性がある。特に若者を中心に、“気軽な気分転換”として手に取ってしまうケースが目立つが、一歩間違えば、命の危険すらある。

【図表】全国の報告事例(2024年~2025年)

地域 製品形状 検出成分 症状
東京 クッキー HHCH 錯乱・飛び降り
札幌 グミ HHCH 嘔吐・痙攣
福岡 グミ 不明(分析中) 意識混濁
大阪 チョコレート HHC類似物質 動悸・幻聴

私たちは、こうした製品が「どのような成分でできているのか」「どんなリスクがあるのか」をしっかりと見極める必要がある。そして一人ひとりが、安易な興味本位で手を出さないことが、被害を防ぐ第一歩となる。

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