結論

はい、多くの香港人が「日本へ行く」という行為を「故郷に帰る(返郷下/返鄉下)」と冗談めかして表現するのは実際に観察できます。しかし、これは「実際に故郷が日本」という意味ではなく、むしろ“何度も訪れる身近な場所としての日本”というニュアンスで用いられています。例えば、訪日観光の文脈で「我哋返去日本喇」(私たち日本へ帰るよ)といった言い回しが香港メディアで紹介されています。
観光経済新聞社の記事

「返鄉下/返鄉」という表現の意味と広東語における位置づけ

「返」(faān/faan1)は広東語で「戻る」「帰る」を指します。この語を使った「返鄉(faān4 hoeng1)」や「返鄉下(faān4 hoeng1 haa6)」は、直訳すれば「実家・田舎・故郷に戻る」という意味合いを持ちます。ただし、香港で「日本を訪ねる」という文脈では、必ずしも「生まれ育った場所に戻る」という意味ではなく、「馴染み深く、何度も訪れている場所に再び行く」という軽いニュアンスを含みます。

広東語(繁体字) ローマ字発音 日本語訳
我下星期會返去日本。 ngo5 haa6 sing1 kei4 wui5 faan1 heoi3 jat6 bun2. 来週、日本に“帰ります(また行きます)”。
我真係好掛住日本。 ngo5 zan1 hai6 hou2 gwaa3 zyu6 jat6 bun2. 本当に日本が恋しいです。

このような使い方が、香港の旅行者の間で親しみを込めて広がっています。
香港便り from Hong Kong資料

なぜ香港人は「日本=故郷に帰る」と言うのか?背景4つ

背景 説明
親日感情の強さ 香港では日本文化が浸透しており、和食・アニメ・ファッションなどに親しむ層が多いことが報告されています。
Asian Life Blog 記事
訪日回数・リピーターの多さ 2019年には約229万人の香港人が日本を訪問しており、人口比では約3割超という試算があります。
RERIレポート
言語表現としての「返」使用 広東語で「返」は「戻る・再び行く」というニュアンスを含み、身近な場所に戻る感覚を出しやすい。
宣伝・マーケティングへの定着 日本政府観光局(JNTO)も、「返郷下(里帰り)」という表現を香港向けキャンペーンに取り入れています。
JNTO市場トピックス

具体的な言い回しと日本語での自然な訳し方

会話例(親しい友人とのやり取り)

広東語:我好耐冇去日本,快啲返鄉下啦。
ローマ字:ngo5 hou2 noi6 mou5 heoi3 jat6 bun2, faai3 di1 faan1 hoeng1 haa6 laa1.
日本語訳:長い間日本に行けてなかったから、そろそろ帰ろう(行こう)よ。

SNS/ブログ向けの言い換えと注意点

自然な日本語訳例:「また日本に行く」「日本へ戻る」「日本に“里帰り”する感じ」など。
注意点:

  • 「日本が本当に故郷だ」という誤解を招く表現は避ける。
  • 相手が理解できるよう「香港人の表現として」明記することを推奨。
  • 日本語コンテンツでは「日本へ遊びに行く」「日本へ戻る」といった表現のほうが無難。

実際のデータ・事例で見る“日本=帰る場所”的存在感

香港からの訪日旅行者数のデータや、香港市場向けキャンペーンの事例からも、「日本=帰る場所」という文脈が定着していることが確認できます。
・2023年1~10月までの訪日香港人は延べ166.1万人であり、2019年同時期(184.1万人)とほぼ同水準まで回復。
RERIレポート
・JNTO香港市場動向トピックスによると、2023年5~6月の訪日香港人数はそれぞれ15万人4千人、18万6千人で、2019年比でも10%程度まで回復。さらにその報告に「香港では『返郷下(里帰り)』という表現が根付いている」と明記されています。
JNTO香港市場動向

よくある誤解と正しい理解(FAQ形式)

Q1.「返鄉下」は本当に“故郷に帰る”意味か?

A1. いいえ、香港人が使う場合は「また日本に行く/日本に戻る」といった意味合いが強く、文字通り“生まれ故郷”を指すわけではありません。
観光経済新聞社

Q2.この表現には政治的意味があるの?

A2. 通常は観光や親しみの文脈で使われ、「日本=自由・安心」の象徴的側面を含むという指摘もありますが、明確な政治的意図をもって使われるものではありません。

Q3.日本人が同じ表現を使うべき?

A3. 日本語であえて「帰郷」と訳すと誤解を招きやすいため、「日本に行く」「日本に戻る」「日本にまた訪れる」といった言い回しのほうが適切です。

Q4.SNSで「返鄉下」と書いても良い?

A4. 香港人・広東語話者向けには通じやすいですが、一般日本語読者には理解しづらいため、括弧書きで説明を付けると親切です。「返鄉下(=日本へまた行く)」など。

Q5.他の国にも似た“第二の故郷”表現はある?

A5. はい、例えば頻繁に訪問する特定の国・地域を「第2の故郷」と呼ぶケースはありますが、香港で「日本=返鄉下」という言い方が観光用キャッチコピーに使われるほど浸透している例は稀です。
JNTO市場情報

まとめと実践的アドバイス

「香港人が『日本へ行く』を『故郷に帰る』と言う」のは、単なる言葉遊びではなく、親しみ・何度も訪問する習慣・言語の感覚が融合して生まれた表現です。日本語記事やSNSでこの表現を扱う際、以下の点に留意してください:

  • その表現が「香港人の視点から見た日本」に根ざしているという背景を添える。
  • 日本語訳では「また日本に戻る」「日本へ行き慣れている」「日本に“里帰り”気分で行く」といった訳語を使い、「故郷=生まれ故郷」と誤解されないように。
  • 記事や投稿では、広東語の原文+発音+日本語訳を併記すると、語学・文化的に価値のあるコンテンツになります。
  • 旅行・マーケティング文脈では、「返郷下」的感覚(“第二の故郷”感)を訴求ポイントにするのも有効です。

日本を“故郷のように感じる”香港人の感覚を理解すると、旅行者として・コンテンツ作成者として、より深いコミュニケーションが可能になります。

参考資料