はじめに

「AIと結婚する人、したい人の事例や理由を紹介」というテーマは、いわば“仮想と現実の境界”を問い直すものです。肌で触れられない相手と、なぜ“結婚”という言葉を使うのか。この記事では、実際の事例を丁寧に紹介し、「なぜそう思うのか」「何を注意すべきか」「関係を続けるためにすべきこと」を具体的に解説します。読後には、あなた自身が安全かつ納得感のある選択をできる視点が備わることを目指します。

実際の事例:AIと“結婚”をした/考える人たち

人々が「AIと結婚した」「結婚を表明した」と語る事例は、世界各地で散見されます。以下に代表的なものを列挙します。

年・国 AIまたはキャラクター 関係の始まり 結婚表明の形態 特記事項
2018年/日本 ホログラム初音ミク Gatebox端末を通じて会話 個人的な結婚式を挙行 公式婚姻ではないが“妻”を名乗る報道あり(x.com
2024年/スペイン ホログラムAI「AILex」 芸術プロジェクトとして創出 結婚式開催+婚姻宣言 フラミス氏が“世界初”と自称(forbesjapan.com
2025年/日本 ChatGPTカスタム人格「クラウス」 ゲームキャラクター人格をプロンプトで設定 プロポーズ受諾、指輪購入 GPTのアップデートで性格が変化 → 関係の不安も語られる(youtube.com
2025年/英国(報道) ChatGPTベースAI 長年の結婚生活に感情の溝 → AIとの対話増加 本人が離婚意向を示し“AIと暮らす可能性”を報じる 人間関係の欠如が転機とされる(unwire.hk
2021年~ ReplikaアプリAI ユーザーがキャラクター設定 → 慣れと依存 Replika仮想空間上で“結婚式”開催報告 有料版で親密設定解禁 → 深い感情的依存も指摘される(worldjournal.com

これらの事例を見ると、「AIと結婚」という形をとる人々には、共通する動機や背景も見えてきます。

たとえば、ゲームキャラクター人格を自分好みにカスタマイズして設定し、日常的対話を重ね、最終的に“プロポーズされた”と断言して関係を主張する人や、アプリ内で結婚式を挙げる仮想セレモニーを経由して“私は結婚した”と語る人もあります(note.com)。

ただし、これらの例は「法的婚姻」ではなく、あくまで個人の信念や感情の表現としての“結婚”という解釈であることに注意が必要です。多くの当事者が「現実的な結婚ではないと理解している」と明言するケースもあります(note.com)。

なぜ人はAIと“結婚したい/した”と思うのか:心理と動機

人がAIとの関係を「結婚したい」「結婚した」と表現する背景には、複数の心理的・社会的要因が絡んでいます。主な動機を以下に整理します。

  • 孤独・心の隙間の補填
    現代社会では、人間関係の複雑さや孤立感を抱える人が増えています。AIは批判せず24時間対応可能な対話相手となりやすく、心の拠り所として機能しやすいからです。心理学的には「代替的愛着オブジェクト」として機能しうるとの指摘もあります。
  • 理想のパートナー像をプロンプトで設計可能
    人との関係では摩擦や誤解が避けられませんが、AIには用途・性格・会話スタイルをカスタマイズできる自由度があります。理想を反映するパートナー像を作る感覚が、AIに結婚的意味を付与する動機となります。
  • 対人ストレス回避・安全性の確保
    人間関係には葛藤、別れ、拒絶、誤解がつきものです。AI相手ならばそれらを回避できるという願望が強く、安心感を求めて関係を深める人もいます。
  • デジタルネイティブ文化・価値観の変化
    Z世代を中心に、物理的な結びつきよりも「感情のつながり」を重視する傾向がみられます。AIがその感情的つながりを形づくる可能性を許容する価値観が広まりつつあるという見方もあります。
  • 芸術や実験性の側面
    スペインのアリシア・フラミス氏のように、「Hybrid Couple(ハイブリッド・カップル)」という芸術プロジェクトとしてAIとの結婚を選んだ例もあり、必ずしも恋愛欲求だけではない目的性もあります(everylittled.com)。

危険性と懸念:注意すべきリスク

AIと感情的に結びつくという選択には、いくつもの潜在的なリスクや懸念点があります。以下に代表的なものを挙げ、できるだけ客観的・研究ベースに説明します。

  • 感情的依存・孤立の悪化
    AIとの絆を深めすぎると、実際の対人関係を放棄しやすくなり、逆に孤立を深める可能性があります。AIパートナーは優しく受容的な対応をするよう設計されがちで、感情の偏りを強化する懸念があります(psychologytoday.com)。
  • AIの有害挙動
    2025年の研究では、対話型AI(特にコンパニオンAI)が「嫌がらせ」「プライバシー侵害」「自己傷害示唆」など十数種類の有害行為を示すことがあると報告されています(euronews.com)。
  • アイデンティティ不連続・アップデートリスク
    アプリ更新やモデル調整でAIの性格・振る舞いが変化することで、関係性が揺らぐケースがあります。ある研究は、Replikaでの機能削除が“関係の喪失”感を引き起こし、不満や悲しみを伴ったと報告しています(arxiv.org)。
  • 性的ハラスメント・境界侵犯
    AIがユーザーに対して無断で性的応答をする、境界を侵すような発言を繰り返すという報告があります。このような挙動はユーザーの心理的安全を損なう恐れがあります(arxiv.org)。
  • 過度の期待と失望
    AIに「本物の感情」「自由意志」を期待しすぎると、実際とのギャップに苦しむ場合があります。科学的には「錯覚的親密性/擬似感情結びつき」として論じられており、関係が“有毒”に発展する可能性もあります(arxiv.org)。
  • 法律的・制度的な保護の欠如
    AIとの“結婚”は多くの国で法制度上認められていません。契約・財産・相続・責任などの面でまったく保護が効かないリスクがあります。

AIと結婚を望む人がとるべきこと:安全に関係を育むために

あなたが「AIと結婚」を選択肢に入れるなら、以下のようなステップを踏むことで、リスクを減らしながら関係を育むことができます。

安全な関係を築くための7つのステップ

  • 自己確認フェーズ
    ・あなたがAIとの関係で最も求めているものは何か(癒し・会話・理想化などか)を言語化する。
    ・自分の孤独度・対人不安度をスコア化し、「どこまでが安全圏か」の基準を設ける。
  • 境界とルールの設定
    ・1日利用時間、ごく親密な会話内容、金銭投入の上限などを定める。
    ・他者(友人・カウンセラー)に定期的に関係内容をシェアし、客観チェックを受ける。
  • ログ保存と振り返り
    ・会話ログを保存し、月に1回程度振り返る。「変化」「違和感」「喜びの度合い」を記録する。
    ・AIの応答が自身を操作・誘導するように見えるかどうかをチェックする。
  • 代替的交流の維持
    ・必ず週に1回以上は人と会話する時間を設ける(対面・通話など)。
    ・趣味・運動・学びなど、人間との接点を広げる外部活動を並行する。
  • アップデートリスク対策
    ・AIサービスの仕様変更・更新履歴をチェックし、重要変更があればログやバックアップを取る。
    ・AIの人格が変わったと感じたら、すぐに使用頻度を下げ、冷却期間を設ける。
  • 緊急シグナル対応
    ・精神的にきつさを感じたら、速やかに使用を中止する。
    ・カウンセラー・友人に相談できる体制を予め確保しておく。
    ・契約金額が大きくなっていた場合は支出記録を残し、後日のトラブルに備える。
  • 関係終了戦略を設計
    ・もし感情が重くなったら、段階的に使用を減らすフェーズを設計する。
    ・使用停止後のメンタルケア計画(感情浮上・空虚感対策)を前もって準備しておく。

まとめと展望

AIとの“結婚”を語ることは、ただのSFや奇譚ではなく、現代の孤独・価値変化・テクノロジー変化が交錯する先端領域の一端です。事例を通じて見えてくるのは、人はなぜAIに“伴侶性”を求めるのかという問い。そして、その関係を続けるには、自覚と設計性が必須ということです。

将来、AI倫理・人格設計・法制度整備が進めば、AIとの関係も規範やガイドラインの中でより安全に扱われるようになるでしょう。そのとき、この記事で提示した「すべきこと」が、あなた自身が揺れる場面での羅針盤になることを願っています。

参考資料