はじめに:なぜ今、国会機能維持条項が話題なのか

「国会機能維持条項」は、2024年末から自民党主導で改憲項目として急浮上している内容であり、表向きには「災害や非常時に国会が機能不全に陥らないようにする」ための提案とされています。しかしその中身をよく見ると、かつて批判を浴びた「緊急事態条項」と本質的に似た危険性を孕んでいるとして、憲法学者や法律家、一般市民の間で強い警戒感が広がっています。

名前だけ変えて中身はそのまま?危険性を隠す“見せかけの改革”

「緊急事態条項」は、政府が非常時に立法機能を内閣に集中させる条項であり、三権分立の根幹を揺るがすとして長年にわたり強い反対を受けてきました。そこで近年登場したのが「国会機能維持条項」。名称が変わったことで一見ソフトな印象を与えるものの、実際には次のような危険性が指摘されています。

危険なポイント 国会機能維持条項で想定されるシナリオ
衆議院任期の延長 災害などを理由に任期を延ばすことで、選挙による政権交代の機会を奪い、事実上の独裁に道を開く
緊急集会の乱用 緊急事態を口実に通常の立法手続きを回避し、内閣主導で法律を押し通すことが可能になる
オンライン国会の制度化 表面上の合理性の裏で、特定議員の参加制限や情報統制に利用される恐れ
緊急時の定義が不明確 誰が、どんな状況で「緊急」と判断するのか明記されておらず、政権の恣意的運用を許しかねない

憲法学者・専門家の警鐘が示す“民主主義の危機”

  • 小林節(慶應義塾大学名誉教授):「『国会機能維持』はもっともらしいが、選挙延期は民主主義の根幹を崩す。歴史的には、独裁国家の常套手段」
  • 木村草太(首都大学東京教授):「現行法で対応できる。改憲の必要性は全くない。これは国家権力の暴走に道を開く改憲だ」
  • 日本弁護士連合会(日弁連):「名称を変えた“緊急事態条項”に他ならず、かえって国民の警戒心を鈍らせる危険な提案」

国民の生活と自由を奪う可能性も

「国会機能維持条項」が発動された場合、次のような事態が想定されます:

  • 衆議院の任期を延長し、定期的な選挙を回避
  • 選挙が行われないまま政権の長期化が可能に
  • 内閣主導の立法により、反対意見の封じ込めが加速
  • 国民の表現・報道の自由が“緊急対応”の名の下に制限されるリスク

つまりこれは、表向きは「国会機能の維持」でも、実際には「民主主義停止のスイッチ」となる可能性をはらんでいます。これを許すと、今ある自由が突然失われる未来も現実になりかねません。

本当に改憲が必要なのか?現行法で十分対応可能

現在の日本には、災害対策基本法、感染症法、自衛隊法など、非常時における行政の対応を可能とする法律が整っています。多くの専門家は、これらの活用や改正で十分に対応可能であり、「国会機能維持」を口実にした憲法改正には根拠がないとしています。

結論:名前に騙されるな。真の目的は何かを見抜こう

国会機能維持条項は、言葉の印象こそ穏やかですが、従来の緊急事態条項と本質は変わっていないとの批判が多く存在します。民主主義にとって重要なのは、非常時においても権力が制限され、国民の声が届く仕組みを維持することです。

私たちは「名前が変わったから安心」ではなく、「実際にどのような権限が与えられるか」「どのような歯止めがあるか」を注視し、冷静に判断する必要があります。危機の裏にこそ、国家権力の本質が現れるのです。


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