はじめに
日本における「外国人の不起訴率」は、しばしばSNSやメディアで誤解を伴って語られます。「外国人は不起訴になりやすい」といった印象を持つ人もいますが、実際の統計は必ずしもそれを裏付けてはいません。
この記事では、法務省 犯罪白書・検察統計の一次データをもとに、最新の「外国人の起訴率・不起訴率」を解説します。さらに、逮捕後にすべき対応、弁護士への相談手順、在留資格への影響まで、当事者・家族が「今知るべき情報」を体系的にまとめました。
結論:外国人の不起訴率は日本人より低い
まず結論から言うと、外国人の不起訴率は日本人より低い傾向にあります。つまり、起訴される割合が高いのです。令和5年(2023年)の法務省犯罪白書によれば、日本人の起訴率は36.9%、外国人の起訴率は41.1%。この差は小さいように見えますが、傾向としては一貫しています。
区分 | 起訴率 | 不起訴率(推定) | 年度 |
---|---|---|---|
日本人 | 36.9% | 約63.1% | 令和5年 |
外国人 | 41.1% | 約58.9% | 令和5年 |
※出典:法務省「犯罪白書 令和6年版」より作成
このデータから、「外国人は不起訴が多い」という一般的な印象は誤りであり、むしろ「起訴されやすい」傾向が確認されます。
外国人の不起訴率が日本人より低い理由
外国人が日本人よりも「起訴されやすい(不起訴になりにくい)」背景には、いくつかの要因が考えられます。
1. 通訳・手続の複雑さ
取り調べでの誤解や意思疎通の難しさが、誤解や不利な供述につながることがあります。
2. 社会的基盤の弱さ
日本国内での居住歴が短く、保証人や定職がない場合、情状酌量や起訴猶予が認められにくい傾向があります。
3. 入管法違反の性質
入管法違反(不法滞在など)は、明白な事実認定が容易なため、起訴率が高くなる傾向にあります。
これらの要因が重なり、不起訴率が低くなる=起訴されやすいという結果に結びついています。
不起訴の種類と意味を正しく理解する
「不起訴」と一口に言っても、実は複数の種類があります。以下の表は、検察が不起訴を決定する際の主な区分です。
不起訴の種類 | 内容 | 主な理由 |
---|---|---|
嫌疑なし | 罪を犯した証拠がない | 誤認逮捕・証拠不十分 |
嫌疑不十分 | 犯罪の疑いはあるが立証困難 | 証拠不足・供述の不一致 |
起訴猶予 | 犯罪事実はあるが情状により起訴しない | 初犯・反省・被害弁償など |
特に「起訴猶予」は不起訴の一種ですが、「罪を犯していない」という意味ではありません。外国人の場合、起訴猶予であっても入管手続に影響を及ぼすことがあります。そのため、早期の法的支援が不可欠です。
外国人が逮捕されたときにすべきこと
もしも外国人の家族・知人が逮捕された場合、慌てずに以下の手順で対応しましょう。
手順 | 内容 | ポイント |
---|---|---|
① 弁護士へ連絡 | 外国人案件に慣れた刑事弁護士を探す | 「外国人案件の実績」を確認 |
② 大使館・領事館へ通報 | 外交的支援を受ける | 国籍国の支援が得られる場合あり |
③ 通訳の確保 | 警察・弁護士間で誤訳を防ぐ | 専門通訳士の同席を依頼 |
④ 家族への連絡 | 留置所・勾留先を確認 | 差入れや面会手続きを迅速に |
特に重要なのは弁護士選び。
外国人事件の経験がある弁護士は、在留資格・退去強制との関係も理解しているため、刑事弁護と入管対応を両立できます。相談時は、「起訴猶予」「不起訴の見込み」「入管手続への影響」を確認しましょう。
よくある誤解:「外国人は優遇される」は本当か?
SNS上では「外国人は不起訴になりやすい」「特別扱いされている」といった声が見られますが、これはデータ的根拠がありません。むしろ、起訴率は日本人より高く、不起訴率は低い傾向にあります。
誤解の背景には、報道で「不起訴処分=無罪」と誤認されるケースや、政治的な文脈で語られる偏見が影響しています。
事実に基づいた理解が、司法制度への信頼を高める第一歩です。
在留資格・入管手続への影響
不起訴になった場合でも、「起訴猶予」や「罰金刑」があると、在留資格更新や永住許可に影響する可能性があります。
特に「起訴猶予」は刑事裁判にはならないものの、犯罪事実があったとされるため、入管庁による審査で不利に働く場合があります。
不起訴後も、行政書士や入管専門弁護士に相談し、将来の在留資格維持に向けた戦略を立てることが重要です。
不起訴・起訴の判断を左右する要素
要素 | 内容 | 不起訴に有利な対策 |
---|---|---|
被害者との示談 | 被害弁償・謝罪 | 示談書の作成・反省文提出 |
前科・前歴 | 初犯かどうか | 初犯なら起訴猶予の可能性 |
社会的基盤 | 定職・家族 | 在留資格・職場の安定性 |
反省・更生意思 | カウンセリング受講など | 弁護士の指導のもと記録化 |
これらの要素は、弁護士を通じて積極的に示すことで、不起訴または起訴猶予の可能性を高めることができます。
まとめ:データと正しい理解で誤解を解く
・外国人の起訴率は41.1%(令和5年)、日本人より高い
・不起訴率は低く、「優遇されている」という印象は誤り
・起訴猶予でも在留資格に影響する可能性あり
・逮捕時は早期に「外国人案件に強い弁護士」へ相談を
「外国人 不起訴 率」は、単なる数字ではなく、司法制度・社会的理解・入管政策の交差点にあるテーマです。誤情報に惑わされず、データと法的知識に基づく冷静な対応が求められます。
参考にした情報元(資料)
- 法務省『犯罪白書 令和6年版』
https://www.moj.go.jp/housouken/housouken03_00024.html - e-Stat(政府統計の総合窓口)「検察統計調査」
https://www.e-stat.go.jp/stat-search/files?page=1&toukei=00110103